音楽と数学

 

 音楽と数学は、一見全く対極に位置するもののイメージがある。

音楽は芸術であり、情操教育のひとつとして子供に楽器を習わせる方も多いと思う。たしかに、音楽はさまざまな感情を表現するものであり、感性が豊なことが求められる。

しかしながら、音楽と数学には密接な関係があるのだ。

 

 そもそも、古代ギリシャでは、音楽は数学の一部とされていた。ピタゴラスは、ピタゴラス音階と

いう音階を確立し、美しく響きあう音程に、整数の比を見出した。初期キリスト教の神学者ヒッポリュトスによれば、ピタゴラスは宇宙が音を奏でていて、音楽で満たされていることを唱えた人物であり、

「7つの星の動きにリズムとメロディをつけた初めての人物」だという。一体どんな音楽だったのか、聴いてみたいものだ。

 幼稚園や小学校に入ったばかりの子供が音楽を始めたときから、

実は、分数や、累乗に、知らず知らずのうちに触れている。

音符は、基本的に分数の計算だ。

まず、拍子は、4/4や、6/8などの分数で表わされる。4/4だったら4分音符が一小節に4つ。この4分音符がさらに分かれて8分音符二つになり、8分音符がさらに分かれて16分音符が二つになる。

 逆に言えば、2分音符、4分音符、8分音符、16分音、32分音符、64分音符、

これらはみな、2の累乗。

そして、演奏するときには、瞬時に1/2、1/4などの分数の組み合わせを計算しながら、一小節につき3拍なり、4拍なりになるようにリズムを形成して、弾き進めていく。

例えば、以下の4/4拍子の小節を分数で表すとこんな風になる。

1+ ( 3/4 + 1/4 ) + ( 1/2 + 1/2 ) + ( 1/2+ 1/6 + 1/6 + 1/6 ) = 1 + 1 + 1 + 1

楽譜を読むことができる子供だったら、分数の概念を理解するのに苦労はしないと思う。

アメリカでは、音楽を習ってきた子供は、そうでない子供に比べて数学能力が高い子供が多い、というデータまである。

 

こちらの動画は、音楽を演奏することが、脳にいかに影響を与えるかという、興味深い動画だ。

 

 私が留学していたアメリカのインディアナ大学は、総合大学で様々な学部があり、音楽科の生徒でも、Double Majorといって、二つの全く違った分野を同時に専攻する学生がいた。

例えば音楽と数学、音楽と物理、音楽とコンピューターサイエンスなど。自分の分野だけでも大変なのに、どうやって二つのことを同時にこなすのだろうと、驚嘆したものだ。なぜなら、アメリカの大学は日本の多くの大学と違って、必死に勉強しなければ容赦なく落とされて、卒業できないのだ。

しかも、「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」というように、どちらも中途半端になってしまうのではないかというこちらの心配をよそに、彼らは今も演奏家として、第一線で活躍している!

 物理学者のアインシュタインは、ヴァイオリンの名手であった

ことでも知られている。彼は「物理学者でなかったら音楽家になっていたかも知れない」と言ったそうである。

アインシュタインの息子は、父親についてかつてこう述べた。

「父に備わっていたのは、私たちが普通考えるような科学者の資質というより、芸術家に近い資質でした。たとえば、優れた理論や立派な研究に対する父の最高の賛辞は、『正確だ』とか『厳格だ』とかではなく『美しい』でした。」

 数学者によると、「数学は美しい」らしい。

物事の真理を射抜いた理論はとても美しく、それは音楽や美術や文学の中にある美とまったく同質のものなのだそうである。なかなか私の数学レベルではそこまではわからないが、古代ギリシャから音楽は数学的な厳密さで形作られ、人々は音楽の向こうに宇宙や神羅万象を見たことを考えると、音楽は単なる音楽という領域を超え、数学や宇宙と結びついた、もっと広大なものに思えてくる。