肩当て

 ヴァイオリン用の肩当は、使う人と使わない人がいる。どちらもメリット、デメリットがあり、私自身先生を変わるたびに、肩当てをつけたり取ったり、また戻したりして、最終的に今は、使う派として落ち着いている。首がまだ短い子供や、肩にがっしりと肉がついて首が短い欧米人の男性などは必要ないかも知れないが、大部分の痩せ型の日本人にはあったほうが弾きやすいのではないか、というのが私の個人的な考えである。

 アンネ・ゾフィー・ムターは肩当てを使わないが、それは「ヴァイオリンの振動をじかに身体で感じ取りたいから」なのだそうで、ドレスがいつもベアトップなのも、そのためだと聞いたことがある。

 

 肩当てにはたくさんの種類があるが、それぞれ着け心地が全く違うので、できるだけ色んなものを楽器屋で試して自分の体型に最も合ったものを選びたい。たかが肩当とあなどってはいけない。身体に合わない肩当をずっと使っていると、肩や首に痛みを生じたり、左手の動きに支障が出ることもある。

 私が試した中で一番つけ心地がよく、音質もいいと思うのは、ヴァイオリンの裏板と同じメープル材で出来た、Mach One の肩当てである。カーブも、身体によく合うようにできている。ただ、この肩当て、楽器によっては外れやすいという欠点がある。以前に販売されていたMach One には、写真のように、オリジナルの足と、がっしりした、外れにくい足の2種類がついていて、大きい方を取り付ければ問題なかったのだが、何故か製造中止になってしまったようである。かわりに新しいタイプの足が出ているようだ。

 子供用では、kun や、viva musica の小さいサイズが一般的だ。kunは、ほとんどの楽器屋さんで扱っていて、一番手に入れやすい。

 viva musicaは木製とプラスチック製があるが、子供用はプラスチック製で、色んな色がある。以前にプラスチック製の大人用を使ってみたところ、使い心地は良かったのだが、ある日弾いていたら突然真ん中から割れて、楽器に当たってものすごい音がして、心臓に悪いほど驚いた。楽器に傷がつかなかったのと、本番中でなかったことが不幸中の幸いだった。生徒さんが使っていたviva musicaも、やはりレッスン中に突然同じように割れたので、この肩当、あまり丈夫にできていないのかもしれない。

ペグ(糸巻き)

 ヴァイオリンのパーツであるあご当て、テールピース、ペグの3つは、主にボックスウッド(つげ)、ローズウッド(紫檀)、エボニー(黒檀)の3種の素材のいずれかで作られている。

 見た目のバランスから、この3つは同じ素材で揃えることが多い。ローズウッドが一番軽く、エボニーが最も重いのだそうであるが、私がいろいろと試してみて、音色が一番いいと思われたのは、ボックスウッドだ。          

 ペグには写真のように、マッシュルームのような形をして、少しふくらんだものがあるが、このタイプは力が入らなくて、調弦がしにくい。ペグで調弦をするのは、けっこうな指の力を必要とするため、慣れないと難しいので、ペグは指が当たる部分がへこんでいるものがおススメだ。

(写真右より、ボックスウッド、ローズウッド、エボニー)


 

  楽器もペグも、木でできているために、夏になると湿気を吸って膨張してペグがきつくなり、冬になると逆に乾燥して、ゆるくなる。ペグがきつすぎてビクともしないとき、そして、きつくペグをねじ込んでもすぐにふにゃっと弦がゆるんでしまうときのために、それぞれ便利グッズがある。どちらもペグコンパウンドと呼ばれるが、右のリップスティックのようなものは、ペグがきつくて動かしにくいとき、左の黒い円盤状のものは、すぐにゆるんでしまうときに使う。どちらも、弦をいったん外して、ペグと楽器本体が擦れ合う部分に塗ればよい。

あご当て

 バロック時代には、ヴァイオリンにあご当てはついていなかった。今でもバロックヴァイオリンで、当時の演奏法にこだわって演奏する人たちは、あご当て、肩当ては使わずに、鎖骨のあたりに楽器を載せて演奏する。

 あご当ては、素材の違いだけではなく、形やサイズも微妙にちがっている。合わないものを使っていると、ヴァイオリンのあざ(あごの下にいつも楽器を当てていることで首にできる、赤黒い跡)ができてしまう。

 あご当てで一般的なのは、ガルネリモデル。他に、真ん中に取付けるフレッシュモデル(アンネ・ゾフィー・ムターが使用)、子供の楽器でよくある、カウフマンモデルなどがある。

(左よりガルネリ、フレッシュ、ドレスデン、カウフマン)

 

 レッスン中に、よくヴァイオリンが当たって痛いと訴える子がいるが、これはあご当ての取付け金具が鎖骨に当たるため。特に、下の写真のようなヒルタイプのがっちりした金具は、出っ張った部分が鎖骨に食い込んで、子供たちにも不評だ。また、カウフマンモデルのような、横に金具が来るものよりは、真ん中のエンドピンをまたぐようにつけられたものの方が、若干当たりにくいようだ。

 

 ヴァイオリンは、表板と裏板を振動させることによって音を出しているので、当然のことながら、板に振動を妨げるものが乗っていない方が、より楽器も鳴る。カウフマンモデルなどの横に取付けるものは、あご当てが楽器にべったりと接触しているので、多少鳴りがわるくなるようだ。こだわる私の知人は、ガルネリモデルと楽器の接触部分についているコルクを少し削って、接触面をより少なくしている。

 

 以前に、あご当てが向こう側に向かって高く持ち上がっているモデルを使ったことがあるが、しばらくして、やけに肩が凝るようになり、よくよく考えたら、あご当てが合っていなかったのだということが分かった。合わないあご当て、肩当ては、怪我のもとにもなるので、一日に何時間も弾く人は、慎重に選びたい。

ヒルタイプの金具
ヒルタイプの金具